こんにちは、aki(@restudyblog)です
作家・村上春樹さんの著作を出版順に読んで感想を記すく<ハルキチャレンジ>に取り組んでいます!
※ただし、入手可能な書籍に限ります
この記事では紹介した本のネタバレを含みます
今回は「パン屋再襲撃」です☆
すでに読み終わった本の感想一覧はこちら▼
15:「パン屋再襲撃」1986/4/10
- タイトル:パン屋再襲撃
- 発行日:1986/4/10
- 発行元:文藝春秋
- ジャンル:短編集
- 読了日:2023/12/26
6つの作品が収められた短編集で、表紙イラストは佐々木マキさんです
マキさんの独特なタッチが村上作品の世界観とマッチしていて、じーっと眺めていたくなる表紙です
同じく佐々木マキさんが描かれた「風の歌を聴け」の表紙も大好きです
どの短編も【過去の呪縛】がテーマのように感じました
失われた過去、果たせなかった過去をもう一度同じ形で取り戻すことはできなくとも、新たな関係性を現在・未来を通して作っていくことはできるかもしれない
そのためには、まずは失ったことを認識するところからがスタートです
今回は表題作の「パン屋再襲撃」について感想を記しました
<パン屋再襲撃>
表題作の「パン屋再襲撃」は、タイトルのとおり2回目の襲撃なので、1回目の襲撃が確かにあったのです!
面白いのが、最初の襲撃時にパン屋さんから提示された条件として、
店のパンをすべて持ち帰ってもいい代わりに、ワーグナーの序曲集を最後まで聴き通さないといけない
というところ。
それでは強奪というよりも、単なる交換条件ですね。
そして主人公と相棒はその選択が正しかったか悩み、最終的には重大な間違いがあるとの結論に達します
そのパン屋襲撃を機に呪いにかかり、いろんなことが変化していった、というのです
初襲撃時の相棒とも、パン屋襲撃が原因でコンビ解消してしまいました。
どうやら、【きちんと襲撃を果たせなかったこと】が、今の呪いにつながっているようなのです。
そして今夫婦が感じている猛烈な空腹も、その呪いによってもたらされてるというのです。
その話を聞いた妻から、
呪いを解くにはもう一度パン屋を襲撃する必要がある
と言われます
結局、散々探し回りましたが深夜に開いているパン屋さんは見つからず、マクドナルドを襲撃することになります。
マック襲撃とは、まさかの展開…!!
車を進めていった描写での到達地点が渋谷なのでおそらく、渋谷駅近くにあるマックでしょうか?
始発待ちで渋谷のマックを利用させてもらったことがありますが、真夜中にあいてるお店の安心感って、砂漠で見つけたオアシス的に格別なんですよね
遠くから見える看板の明かりを発見すると、途方に暮れて疲れ果てた体と心に安堵感が染み渡ります
果たせなかったこと、そして喪失による呪縛
なぜパン屋を初襲撃した時に呪いにかかったのか?
がこの物語のPOINTなのでしょう。
再襲撃を試みる必要があったのはおそらく、
と解釈しました
自分の中では終わったこととして閉じたままで次の段階へ進んできたつもりが、実は澱のようにじわじわと今の自分を蝕んでいる=呪いとして囚われてしまっている、ということ。
そして放置すればするほど、その呪いが現在に与える影響が大きくなってしまう…
それをパン屋襲撃(マック襲撃)という形にして昇華しようとしているのが面白いなぁ…!
と、思わず唸ってしまいましたよ。
呪いというのは、言い換えると<過去を精算しない弊害>ともいうのでしょうか。
一度やってしまったことは、全てを真っ新にしてやり直すことはできませんが、新しい今のやり方でもう一度上書きに挑戦することはできるかもしれない。
そう考えると、少しだけ救われた気持ちになりますね
amazarashiさんのアルバム『永遠市』に収録されている「真っ新」という曲がありますが、まさにそのようなことを歌われていて、初聴時にほろほろっと涙がこぼれてしまいました
シンプルに伝わってくる、良い曲です
ビッグマックとワーグナーに思いを馳せる年の瀬
この短編集は「過去の呪縛」がテーマだと勝手に解釈させてもらいました。
そのおかげで、タイミング的にちょうど年の瀬ということもあり「何かやり残したことはないかな?」と振り返るきっかけになりました
そして当然ながら、ビッグマックが食べたくなるわけです
ただでさえ高価でなかなか手が出ないのに、インフレでますます手の届かない存在になってしまった超高級ハンバーガーことビッグマック…!
年越しビッグマック、なんていうのもありかもしれない?
ちなみに、初襲撃時に聞くことになったワーグナーの序曲集(2曲)の演奏時間を調べてみました
- 『タンホイザー』序曲:16分30秒
- 『さまよえるオランダ人』序曲:10分
合わせて30分に満たないので、取引条件としては良い条件だったのかもしれません(?)
コメント